1. 学術的意義と写本の来歴
17世紀末にカシュガルで著された歴史書『タリーヒ・カシュガル』(別名『チンギズナマ』)は、
ヤルカンド・ハン国およびモグリスタン史を今に伝える第一級の同時代史料です。
本プロジェクトでは、ロシア科学アカデミー東洋写本研究所サンクトペテルブルク支部に現存する最古・最良の手書き原本「タシケント写本(整理番号:C576、全105葉)」のファクシミリ写真から直接読解・校訂を行い、
伝統的アラビア・ペルシア文字正書法(無母音正字)による世界初の学術批判校訂版(Critical Edition)を構築しています。
2. 1986年カシュガル版活字本との文献学的相違
これまで広く用いられてきた1986年カシュガル版(現代ウイグル文字活字本)は、現代の発音に合わせた翻字が施されているのみならず、
見出しの欠落、君主名の脱落、アラビア語祈祷文の激しい崩壊・文字化けが多発していました。
- 【第1章】預言者讃歌・カリフ讃歌見出しの完全復元(Folio 1b)
- 【第1章】文字化けしていたアラビア語祈祷文の解明(Folio 2b:
يَا لَيْتَنِي صَبَرْتُ عَلَى أَذَاهُمْ)
- 【第2章】脱落していたタタール君主「バイルー・ハン(بايرو خان)」の復元(Folio 4b)
- 【第2章】空白となっていた章題「モゴル・ハン(ذكر مغول خان)」の完全復元(Folio 4b)
- 【第2章】オグズ誕生時の「三日三晩(اوچ كچه كوندوز)」の乳拒絶語句の復元(Folio 4b)
3. 古典チャガタイ語正書法の原則
- 無母音正字の徹底:短母音を独立文字化せず、長母音・語頭母音のみに
ا, ي, و を用いる伝統的正書法を墨守。
- 借用語の語源的綴りの維持:アラビア語・ペルシア語起源の語彙は本来の正字(
ثنا、اوّل、سرّ、سوق الثمانين 等)を再現。
- 半聯区切り符の再現:写本原本の詩句区切り記号「⁂」を忠実に保存。
4. 資料の所蔵と利用規約(学術クレジット)
本ポータルで提供している写本ファクシミリ写真は、ロシア科学アカデミー東洋写本研究所サンクトペテルブルク支部(Institute of Oriental Manuscripts, Russian Academy of Sciences)所蔵のタシケント写本(整理番号:C576)の影印版(O.F.アキムシキン教授編、2001年)に基づき、非営利の学術研究・批判校訂・教育対照の目的に限り参照・提供しています。
古典チャガタイ語テキスト批判校訂・現代ウイグル文字対照・日本語学術全訳・校合注記(Apparatus Criticus)は、本プロジェクト独自の学術研究成果(編集著作物)です。
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